Story
本日は、浦和の名店「むさし乃」にて、新仔鰻との邂逅を果たした。近ごろの東京は、まるで気候もAIの気まぐれに左右されるかのごとく、昨日までの雨が嘘のように晴れわたり、まことに“行列日和”とあいなった。
開店までまだまだの時間だが、既に四人が先を越している。人々の舌はコンビニ飯に慣れ、胃袋は即時配達に甘やかされているこのご時世において、炭火の匂いに並ぶ覚悟を持つとは、誠に気骨のあることと感心する。列に並ぶという行為も、もはや修行の一環と心得て、ゆるりと待つ。
黒板に記された「和匠 新仔鰻」の文字が、何やら歌舞伎座の顔見世興行のごとく誇らしげに輝いている。新仔とは、養殖とはいえ生後半年未満の若き鰻である。いわば鰻界の新進気鋭、さながらスタートアップの気鋭の若者が、上場前にして業界の注目を集めているようなものである。
この鰻が、丹念に、そして実直に焼かれる様子は、まさに職人芸。ぱりっとした皮目とふっくらとした身、その絶妙な焼き加減は、昨今の“効率”と“時短”を是とする風潮に一矢報いる存在である。小骨の一本も感じぬとは、骨太な社会が失われた今、ここに本物の“芯”を見る思いである。
さて、メニューは「新仔鰻重」一本。潔い。余計なことはせぬというその姿勢に、かつての文士の矜持を重ねてみたくもなる。開店10分前、暖簾の奥から「どうぞ」と招かれる。こういう予定調和を破る洒落っ気がまた嬉しい。熱燗を頼み、まずは松前漬けを前に一献。外の喧噪を忘れ、時代が静かに遠ざかる。
テレビで見かけた記憶のある店主が、わざわざ挨拶に見えた。こういう時、著名人と目が合うと、なぜか己が立派になった気がするのは人情であろうか。思わず「これは良き店である」と一人ごちる。
先日、近所の川辺で見かけたカワセミの瑠璃色の羽を思い出し、酒が進む。「このまま山にでも籠るか」と思わせるほど、静謐な時間が流れる。
そうこうするうちに、ついに新仔鰻重が登場。照り、艶、盛り付け、すべてに破綻がなく、美しさすら感じさせる。まずは山椒を使わずに、という店の指示に従い、ひと口。ああ、これは口福である。脂の具合も程よく、甘辛のタレが香ばしく染み入る。新仔特有の柔らかさが、まるで吟味された随筆の如く滑らかに舌をくすぐる。
隣の紳士も無言で鰻をかき込んでいる。この“黙して食す”という様式美、言葉よりも雄弁である。近ごろ、何でもかんでも“映える”ことを最優先する若者には、この沈黙の重みを知ってほしい。
最後のひと口に、山椒をぱらり。ふわりと広がる清涼な香りに、また新たな次元の旨味が立ち上がる。これはまさに“静から動”への転換、構成の妙である。完食ののち、湯呑を手にほっと息をつく。腹も心も満たされて、我輩は浦和の街を後にした。
次に訪れるのはどの鰻か――そんな思索にふける帰り道。世の中は慌ただしく、SNSの炎上も、株価の乱高下も、AIの暴走もある。しかし、こうして“丁寧に生きる食”の体験が、我々を人間たらしめているのだと、しみじみ思うのであった。
店舗概要
-
所在地:埼玉県さいたま市浦和区東高砂町8‑3 関長マンション1F(JR浦和駅東口より徒歩約4分)
-
創業年:1952年、現店主は三代目として伝統を守る
-
席数・構成:全18席(カウンター6席、テーブル12席)、全席禁煙、椅子席のみの為、小さなお子様連れは不可
-
アクセス便利:浦和駅東口からすぐの前地通り商店街内にあり、徒歩圏内で到達可能
営業時間・定休日
-
営業時間:昼 11:00~13:00(※鰻が売り切れ次第終了。夜営業は現在お昼のみ)
-
定休日:毎週月曜日・第2火曜日(祝日の場合は翌日振替休業あり)
-
予約不可・先着順の案内:予約不可、全員揃い次第の入店で、代表者待ち可
価格帯・支払い
-
予算:鰻重は約5,000~6,000円前後、素材の質を反映した価格設定
-
支払い:現金のみ(クレジット・電子マネー不可)
料理へのこだわり
-
素材:宮崎県佐土原など産地直送の国産鰻“和匠”を使用。特に新仔鰻重が人気
-
調理法:注文後に丁寧に裂き、串を多数打ち、一尾ずつ蒸してから備長炭で焼き上げる本格江戸前スタイル
-
小骨処理:店主自ら1人前あたり約200本の小骨を手作業で抜く徹底ぶり
-
味わいの特徴:外は香ばしく中はふっくら、タレは甘すぎず上品。山椒をかけずに食べても十分に楽しめる絶妙なバランス
評価・実績
-
食べログ “うなぎ百名店”2024選出など、連年高評価を獲得
-
食べログ点数3.94、Rettyでも評価4.17と高評価が並ぶ
-
多くのレビューで「ふわとろの食感」「開店前からの行列」など、名店の証が見られる
来店時のヒント
-
開店前がおすすめ:11時開店ですが行列ができるため、10:30頃までには到着を。夏場はもう少し早めがおすすめ。
-
全員揃わないと入店できない:グループで来店される場合はご注意を。
-
ぴったりの一品料理:鰻重のほか、白焼や肝吸いなどサイドも充実(時期によっては白焼がおすすめ)
食べログ:https://tabelog.com/saitama/A1101/A110102/11003959/
公式サイト: https://unagimusashino.com/
コメントを投稿するにはログインしてください。